ささやかな魔法修行-classic

大きな大陸から少し西側にある小さな島に鬼のような大魔法使いX(女)がいるときいた。
僕は恐る恐るその大魔法使いをのぞきにいってみた。

その大魔法使いXは少し怖いけれど美しくて貫禄のある風貌をしていた。
マイティソーでヒロイン役を演じた美淑女に似ていたように思う。
彼女は島人たちに向かって魔法のレッスンをしていた。
僕は島人に混じって、彼女の声に耳をかたむけてみた。

大魔法使いXの話を聞いていると、まるで彼女が「正義の塊」のような人物に思えた。
そして少し異端ではあるもののかなり強い魔力を持っている者であるようにも感じられた。
しばらくすると、大魔法使いXは彼女へ反対意見を述べたことのある他の魔法使いたちに対して強烈な反論を加え始めた。
そして反論を加えた後に必ず相手を小馬鹿にする単語が添えられていた。
もしかすると、これはこの島に伝わる古典派のジョークなのかもしれない。

隣にいた中年の島人の男女はどういうわけか吐き気を催したらしく体調不良を訴えてその場から去ってしまった。

「アホなのよ、アイツらは」
「こんなものも知らないなんて本当に不勉強だったわ、それでわたくしに意見を述べるなんて」

言われてみると、アイツらはアホなのかもしれない。
アイツらというのは、大魔法使いX(女)とは異なる属性の魔法を使う魔法使いのリーダーたちのことだった。
彼女がアホだと思ったといって示した根拠に僕は特に異論を抱かなかった。
属性の違いによるところが大きい気がしたので、「大魔法使い(女)の立場からすればそう思った」のだと僕は受け取った。
勿論、他の魔法使いのリーダーにも思うところ(反論)はあるだろう。

”僕は”……!

帰りの船に乗る直前に島人の中年の女に会った。
「あの大魔法使いXのやつ、あんなに他人のことを叩いて…。いくらなんでもあれは言い過ぎよ。ほんと無理だわ」

僕は、とても驚いた。
気付かなかったけれど、言われてみると、大魔法使いXは言い過ぎだった…。

島人の女は僕に対していかに苛立ち、吐き気を催したかについて素朴に語ってくれた。島人の中年女の素朴さは、圧倒的上から目線の大魔法使いXの悪態に効果的だった。
こういう風に言われるとたしかに、大魔法使いXが悪い奴のように思えてくる。

それはそうと、あの辛口発言について、こんな風に感じる人がいたなんて。
僕は、他人のことをあそこまで酷く叩くようなことはしないだろう。
<いや、、ぬぬ!僕も一歩間違うと同じことをやりかねないぞ!>
……反面教師にした方がいいところがあるかもしれない、と思い直した。

僕は船に乗って、いつもの村へ帰っていった。

翌月のことだった。

魔法使いのリーダーYと隣村の村人たちが丘の上で晩餐会を開いていた。
僕はたまたま、その晩餐会に出席することになった。
出席することになったのは、多分、そう、僕が着ていた甲冑が少しかっこよかったから彼らが声をかけてくれた、とかそんな理由だったと思う。

この晩餐会は僕にとって、違和感を強く覚えるものだった。
隣村は旧体制の統治システムを採っているのかもしれない。
僕の暮らす村や僕が今まで訪れた村と比較すると、古い感性の者が多かったように思う。
古臭さ、厚かましさ、執拗さ、非洗練さ、押し付けがましさを端々に感じて僕はすっかりうんざりしてしまった。
彼らは魔法トークに興味がなかったようなので、そもそも僕とは話が合わなかった。
こういった感じだったので、僕は不躾な質問を受けた際などは、なんとか耐えてデリシャス鍋に秘密の辛いソースを何度か投入するだけにとどめた。

しかしながら、その秘伝の辛いソースについて文句を言って絡んでくる隣村の村人さえいる始末だった。
もちろん、ソースの下味に何が使われているかについて、気付くような者はいなかった。それもまた僕をがっかりさせた。

全ては、感性や価値観の相違にすぎない。
だけど、僕は二日間ぐらい考え込んでしまった。
というのも、近年、地球規模で、価値観の押し付けが強くなってきていたからだった。
相違しているその状態を是としない人たちが多いこと、そして
この状態を解決する(恐らく)唯一の方法は*******であることを数か月前に、僕はいくつかの魔法書で学んでいたからだった。

わかりあえることはないだろう。
わかりあわなくても別にいい。

ただ、何かを押し付けられるのは絶対に避けたいし、変に悪目立ちすることも避けたい。
それから、僕は僕が考える正しいものやきれいなものにもっと触れていたい…。

<それはどこにあるのだろう?>
こういう時、妙に不安になり、強くて正しいものによりかかりたくなった。
<そういえば、あの大魔法使いXとは、今のところ別に価値観は相違していない。>

ふと、あの大魔法使いXが魔法を精製するときに、シェイクスピアの本を魔法窯の中へ投げ込んでいたことを思い出した。

 

とりあえず、僕は、邪念を消し心を落ち着かせるために、シェイクスピア先生の本(超EASY版)をゆっくりと読み進めることに決めた。